西東京お散歩随想

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 食料品の買い物ついでに、ブラリとお散歩してきました。
 計画的に歩きに出るのも良いですが、ステキ空間というのはどこにでも転がっているものです。
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 わたしの住んでいる地域は、時間的にはそれほど都心から離れているわけでもないのですが、完全に開発から取り残されているエアポケットのようなエリアです。駅前は畑です。
 世間様は都会好きらしく、家賃相場もお安いのですが、個人的には良いことだらけです。通勤できる距離でありながら人は少ないし、夜は早いし、何より小さな自然が近くにあります。スーパーはないと困りますが、コンビニは要りません。
 そんな半端郊外をブラブラ歩いていると、気持ちよく脳が動きます。

 お散歩というのは、単に空間を移動するというより、時間の中をブラつくものです。犬のお散歩では、電柱に痕跡を残したり、別の犬の匂いを辿ったりします。あれが「時間の中を歩く」ということです。「今ここにある過去」を感じるのです。
 どんな土地にも歴史というものがあり、去っていった人々の匂いがあります。別段名所でなくても、打ち捨てられたような神社仏閣などを眺めていると、地層の中を泳いでいるような幻覚に襲われます。
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 以前京都にいた頃、市部から大分離れたところまで仕事で行くことがありました。のどかな山間の集落なのですが、異様にお地蔵さんの数が多いのです。
 お地蔵さんというのは「傘地蔵」を思わせて可愛らしいものですが、語源的にはサンスクリット語「クシティガルバ」の意訳で「大地の胎蔵」のことだそうで、転じて子供の神様のようになったものです。水子に見る通り、なかなか奥深いものがあります。
 「きっと子供が沢山死ぬ出来事があったのだろうなぁ」などと不吉な想像を逞しくしていました。
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 便利な生活というのは、無時間的なマトリクスに囲繞されたものです。ネットが代表ですが、東京の地下鉄路線図などを眺めていても「脳の外在化」という養老孟司さんの言葉が思い出されます。プロセスの要する時間を仮想的に抹消し、原因と結果の直結に向かって微分化していくフィクションです。
 ですが、ネット自体も物理的な基体に支えられてはじめて成立するものであり、実に物質的なものです。無時間を仮構しながらも、時間から自由になることはあり得ません。利便性という点からはあまり見たくない側面ですが、時にこちらのサイドに身を置いてみることで、無時間的思考にも活性が注ぎ込まれるものです。なぜなら、脳内の無時間フィクションは、その外部にあって「無い」と仮定されているプロセスからこそ、エネルギーを供給されているものだからです。
 「とりあえず今日は死なない前提で」という日常生活と、死すべき存在としての宿命という二項対立にも対応します。有限性をどこかで感じるからこそ、無限的仮構も有効に生かせるのです。
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 「空き地」というのも美しいものです。
 かつて『データハウス1号』に寄稿したテクストでも触れていたのですが、空き地とは未だ名付けられていない土地です。加えて、それが「空き地」と名指されるのは建築可能性が留保されているからであって、言わば「未だ見ぬ時における過去」という未来完了時制的なものが現前している姿なのです。空き地は無気味な現実として立ち現れます。次々と別項を参照することで成立する経済からこぼれ落ちながら、とにかくそこにあるのです。言語経済の外部であり、有用性というフィクションにエロスを注ぎ込んでいるドライバでもあります(フロイディアンにならTriebと言うべきでしょうか)。
 空き地は余白=周縁marginです。marginalな場所には真理が宿ります。都市化に乗り遅れた郊外の空き地、境界地域に建つラブホテル、ゴミ焼却場、墓地。かつてわたしの先輩が、並立するラブホテルと墓地を指して「生と死が隣り合わせ」という素晴らしいポエジーを示してくれたことがありますが、都市をドライブしているものは周縁においてこそ剥き出しになっています。周縁の峠道を生死を賭けて攻めるライダーたちの存在も、どこか示唆的です。
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 ごちゃごちゃと書いてしまいましたが、どんな場所を歩くにしても、うまく精神をオフにすることで感じられるものがあります。
 人間は歩いて生きてきたのですから、疲れている時こそお散歩に出た方が心身も復活するものです。ウォーキングで脳が活性化するという研究もあります。
 そんなわけで、ネットなんて見てないで、日のあるうちにお散歩に出て「身近なステキ発見」された方が良いですよ。

osanpo_book.jpg『お散歩ブック』杉浦さやか 角川文庫

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