かわいそうな象とペシャンコの猫


 Enemy of the Sun:「かわいそうなぞう」を殺せ!

 「かわいそうなぞう」に涙し、「象がかわいそうだ(からトリアージやめろ)」と抗議する生徒は確かに「ナイーブ」で馬鹿かもしれない。しかし、本当に問題にすべきは学生が馬鹿であることではなく、まさにそうした「抗議」すらも「権力」(あえて権力者とは書かない)が自身の権力を保つために要請したものかもしれないということであり、「純粋な子供」は「汚い大人」の潜在的な味方かもしれないということだろう。
 では、「かわいそうなぞう」に対して我々サヨクが為すべきことは何か?言うまでもなく、経営学者たちが「かわいそうなぞう」の話に拍手し始めるよりも早く、哀れな象の顔面に散弾銃を叩き込むことである。

 素晴らしい。まるでわたしが書いたようです(笑)。

 「汚い大人」と「無垢な子供」がいて、「無垢な子供」は少数派だけれど確実にいて、彼・彼女が「かわいそう」と言い、しかし象は殺される。この全体が、恐ろしく強力な吸引力を持ったトラップでしょう。経営学者に対抗するとしたら、それは「かわいそう」と言うことで、純粋だけれどバカなのだ、という囲い込みがここにはあります。
 「かわいそう」と口にしてしまうことには、実は麻薬的な気持ちよさがあります。わたし自身も時々口にしてしまうし、正直とても気持ちよいです。いや、「かわいそう」を使う人々の多くは、必ずしも「かわいそう」の麻薬性に自覚的ではありません。彼・彼女たちの心の中を覗けるわけではないので、もしかするとわたしの認識より自覚しているのかもしれませんが、ここで「無垢な子供」の側を選択するということには、自らの心に対する慰撫的な効果があるばかりでなく、一定の戦略性があるのです。「無垢な子供」「馬鹿な学生」「純粋だけれど不適応な人」「弱者」、これらには、上手く使うと大変得なことがあるからです。
 別段、「戦略的弱者」などと揶揄したいわけではありません。経営者が戦略を謳うなら、女子供だって持てる特権を駆使して戦略くらい練るでしょう。戦略、大いに結構。
 では何が言いたいのかと言えば、そこに「戦略的有利」ができていること自体が、トラップの吸引力なのだ、ということです。「かわいそう」の入り口には、「今入会すれば30%OFF」と書いてあるのです。

 だから、象を撃たなければなりません。かわいそうだから、象を撃ちます。
 もちろん、象の前に立ちふさがって、逆に人間に銃口を向けることも可能でしょう。象を撃ち、人間を撃ち、三人目くらいを倒したところで四人目に撃たれて死ねば、理想的です。地獄で武勇伝の一つも打てるでしょう。

 文字通りに「かわいそう」と、例えば百貨店に対して言ってしまうことにも、多少なりとも壊乱的効果はあるでしょう。それは「無垢な子供」という形で予め織り込まれてはいますが、いないよりはいくらかマシです。経営学者を苦笑いさせ、時間を稼ぐ程度の意味はあります。
 だから、全否定はしたくないし、わたしもついうっかり「かわいそう」を使いたくなります。
 そういう時は、わたしがかつて遭遇したある醜悪な事件を思い出すようにしています。
 京都に住んでいたある時、バイクに乗っていると(京都に居た頃は、主にバイクで移動していた)、道の真ん中に猫の死体が転がっていました。
 今思えば暇だったと思うのですが、わたしはバイクを停め、踏み潰された上さらにアスファルトに練りこまれつつある猫が、これ以上ペチャンコにされないよう、とりあえずズルズルと引っ張って道路の脇まで持ってきました。
 困ったのはそれからです。本当は埋めてあげたいですが、京都とはいえ街中、そうそう埋められるような土の場所などありません。たまたま近くに公園に見える場所があったので、そこなら埋められるかもしれない、と思ったのですが、埋める道具も持ち合わせていません。
 ここまでやっただけでミッション完了にしようか、でもちょっと中途半端すぎないか、と眼球の飛び出した猫を見ながら考えていたところ、OL風の女性が通りがかりました。
「えーっ!? ねこ!? 轢かれちゃったの!? かわいそうー!」
 正直、「わたしが轢いたと思われるんじゃないのか」という単純な自己弁護の気持ちもあったのですが(笑)、それ以前にこの女の「かわいそうー!」が恐ろしく劣悪で、一瞬にして頭蓋骨を突き抜けるようなアドレナリンが噴出してくるのがわかりました。
「だったらお前が片付けろ!」
 わたしは怒鳴り、女の方に一歩歩みだしました。女は硬直し、もう一歩わたしが踏み出したところで、走ってその場を去りました。

 ありがとう、バカ女。アンタのお陰で、わたしは少しだけ自分の「かわいそう」に自覚的になれたよ。
 わたしは猫を轢き、象を撃つだろう。次は女ども、お前たちだ。弾はまだ沢山ある。

 あと、猫、あの時は結局途中で投げ出してしまってごめんね。