働かざる者食ってよし!


 友人宅にバジルの鉢植えがありました。
バジルアオリ
 一週間前に葉をむしり切ったばかりなのに、一週間もすると元以上に再生しています。初めは何気なくホームセンターで買ったそうですが、どんどん育って植木鉢も換えて、今も大した手間もかけずに天然バジルを楽しめている、とのこと。
 この友人宅はかなりの片田舎にあって、夏には田んぼの蛙の声で電話が聞き取りにくいほどです。わたしも目の前が田んぼ、というところに住んでいたことがあったのですが、田んぼや河を見ていると異様に心が落ち着いてきます。根が田舎者というだけかもしれませんが・・。
 こういうものを見ていて感じるのは、時というものの「与える」力です。
 わたしたちは、時の「奪う」力にはいつでも敏感です。誰でも老いて死に近づくのは怖いです。納期が迫り、若手にポジションを脅かされる。日常生活のほとんどで、時は「脅威」として振舞っています。
 でも、そうした時の残酷さも、もっと地の部分で圧倒的に時が「与えて」くれているからこそ、初めて成り立つものです。こう書くと高尚ですが、要するにほっといても植物やら動物やらは育つし、生き物は基本的にその辺に生えているものをテキトーに食べているものだ、ということです。
 「働かざるもの食うべからず」と言いますが、人間は元々働いたりしていませんでした。その辺に落ちているものを拾って食べていたのです。
 人類の歴史の大半が「狩猟・採集」生活でしたし、その狩猟も「伝説のガゼルを倒す!」などというのは万に一つもなくて、大概はダボハゼ釣ったりシロアリ食べたりする程度で、残りはドングリ拾ったりしてしのいでいたはずです1
 もちろん、人口が増えてきたり気候が厳しくなれば、拾い食いだけでは立ち行かなくなるはずで、そこから農業や牧畜、そして工業が発達してきたわけですが、元をたどれば「生えているもの」です。
 バタイユではないですが、わたしたちが「世界」だと思っている人間的システムを回転させているのは、外部の圧倒的なパワーです。太陽とか化石燃料とか、もっとわかりやすく言えばバジルが勝手に生えてくる感じです。生えているのだから、むしって食べたら良いのです。
 わたし自身が「稼いで稼いで使って使って」という都会的・近代的な世知辛い生活に振り回されて、忘れがちだからこそこうして書きとめておきたいのですが、そういう生活をしていると、つい本気で「働かざるもの食うべからず」と信じ込んでしまいます。働きたくても仕事のない人すら、なんだか怠けているような、無為に福祉財政を食いつぶしているような、暗黒な目で見る心に侵食されてしまいます。
 しかしこの心は、サタンの罠です。
 働かなくたって、食っていいに決まっています。
 昔ある友人が「一家に一人働いている人がいれば、大体四人くらいまでは働かないでも死なない」という名言を吐いたことがありますが、労働というのはちっともデフォルトではありませんよ。
 もちろん、働いた方が現金収入も入りますし、大抵は働かなければ食べていけません。また、働くこと自体の楽しみというのもあります。しかし、「食うべからず」とか「働くべき」とかいった、道徳律の入ってくるような性質のものでは全然ありません。
 こんなスローガンが捏造されたのは、国家のイタイところを国民がチクチクしないように、道徳律で人心を盛り上げて誤魔化していたのが始まりでしょうが、今や労働者(=名も無く貧しい権力者)自身が、自分の奴隷的境遇を慰撫するために、過剰に労働の価値を称揚し、働かない者を悪し様に罵るようになっています。正に権力の思うツボです。
 そういう気持ちでいた方が労働が楽になる、というのはよくわかります。わたしもサタンの誘惑に負けて、弱い心を守っていることがしばしばですから。
 でもそれはやはり「弱さ」から来るものであって、労働それ自体の価値など一ミリも認めず、尚且つ立派に労働をこなす者こそ真の侠客です。
 任侠の道は大変険しく、ワタクシも至らない点ばかりですが、満員電車に揺られながらも、勇気をもって叫びたいです。
「働かざる者食ってよし!」
 日経ビジネスみたいな加齢臭な仕事論をぶつより、バジルむしって食べましょうよ。
 呼吸だって趣味でしているんですから、労働なんかただの暇つぶし。よーし働くぞー!

4480087478 呪われた部分 有用性の限界 (ちくま学芸文庫)
Georges Bataille 中山 元
筑摩書房 2003-04

バジル窓

関連記事:
「バカ正直こそ最も危険な反権力分子」
「空気が読めない者、その罪状と判決」

  1. 「採集民のススメ」参照 []

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コメント

  1. Kousyoublog より:

    日本を蝕む「働かざるもの食うべからず」…

    タイトルはホッテントリメーカーからです。ありがとうございました。働かざる者食ってよし! – ish
    わたし自身が「稼いで稼いで使って使って」という都会的・近代的な世知 (more…)

  2. N23計画 より:

    働かざるもの…「あれ?もう食べてるの!?」これぞラテン諸国の…

    「稼いで稼いで使って使って」という都会的・近代的な世知辛い生活に振り回された生活をしていると、つい本気で「働かざるもの食うべからず… (more…)