大きな大きな一歩

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 今、彼はこのブログを見ていません。

 昔バイト先で知り合った彼は、わたしがそのレンタルビデオ店を辞めた後も働き続け、店の廃業と共に職を失いました。
 とても優しいけれど社会に対してあまり積極的でない彼は、その後仕事に就くこともなく、実家に帰って引きこもってしまいました。
 決して能力がないわけではありません。学歴は「超」が付くほど一級で、性格も真面目でプログラミングのスキルもあります。ただ、人を押しのけてでも這い上がっていく覇気に欠けていました。
 色々と内面の問題を抱えていたようで、週に一回カウンセリングに通う以外は、家事を手伝って散歩するだけの暮らしが何年も続きました。
 住む場所が離れてからはほとんど会う機会もなくなりましたが、それでも時々は電話する仲でした。半分泣きながら「すべて」を話したのは、いつのことだったでしょう。
 わたしは、別に引きこもりが悪いとは全然思いません。
 家事手伝いだって立派な役割だし、それぞれの生き方があれば良いのです。
 ただ、もしも本人がそれを辛く思っていて、居場所がないと感じているなら、やっぱりどこかで勢いをつけた方が自分自身のためだと思います。そして周囲もできるだけのことをしてあげるべきです。
 少し前、久しぶりに彼と電話しました。
 工場の期間工の面接に行く行かないが話題になった時、知らずにやんわりと後押しするような話し方をしていました。立場は違っても「宙ぶらりん」な感じが他人事とは思えなかったのです。半分以上自分自身に対して語りかけていました。
 そして先日、一通のメールが届きました。
『十月から仕事に行くことになりました。これを機会に、ネットも切断することにしました。連絡は、昔ながらの方法で。のろし以外で』
 ややネット依存ぎみだった彼は、それを「首からプラグを抜くような気持ちで」と表現していました。
 今、彼はこのブログを見ていません。
 友達がサイトに来てくれないことが、こんなに嬉しいなんて。
 おめでとう。
 世間から見れば些細なことかもしれないけれど、君は今、月に降り立ったくらいの大きな大きな一歩を踏み出したんだよ。
 その勇気を心から尊敬する。これから一杯一杯いいことがある。断言できる。
 あたしも負けないから。
 今度会うまでに、絶対綺麗で強い女になってるから。
 連絡するからね。のろし以外で。
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