アラビア語の文法は数学的に精緻に構造化されていることで知られていて、語学マニアの中にはこの文法の複雑さに惹かれてアラビア語を始める人もいるようですが、わたしの脳みそにはひたすら負荷が高いばかり。結構色々な言語を齧りましたが、このわけのわからなさはラテン語に勝るとも劣りません。
アラビア語というと、見慣れないアラビア文字のインパクトが大きいと思いますが、文字は意外と早く習得できます。右から左に書くのも自然。手で文字を書くということがほとんどない生活なので、一番手書きしているのがアラビア語です。たまに英語を右から読もうとしてしまい、ハッとすることがあります。
というか、一旦文法の学習に取り組むと、こっちがヘヴィすぎて文字の壁なんて一瞬で忘れます(笑)。
動詞の活用が非常に多いこと(人称・性・数・時制・態・法の組み合わせで一つの動詞が大体100通りくらいになる)は覚悟ができていたのですが、実際始めてみて一番インパクトを受けたのが数詞です。
まず、数えられるものの性と反対の性の数詞が使われる。性・数の一致という概念を根本から覆すような衝撃です。一体何のための性だったのか、わけがわからなくなります。
そして1と2は、英語などと同様に形容詞として数える対象を修飾するのですが、3からは何と名詞になります。「3つのリンゴ」という代わりに「リンゴが3」というような感じです。モノの方が数詞にかかるのです。
アラビア語は単数・複数と双数形というのがあり、2は特別です。ですから、一応1と2が別格なのは理屈がないわけではありません。あ、ちなみに1と2だけは性が一致します。形容詞ですから。
ここまででもびっくりなのですが、まだ続きがあります。
3から10までは非限定・複数・属格の名詞が数詞を修飾するような形になるのですが(属格は英語の所有格のような格)、11からは非限定・単数・対格が付くのです。いっぱいあるのに単数。不可算名詞のように「いっぱいあると数えられなくなる」イメージを持てば「単数」はまだわからなくもないのですが、対格(目的格)というのは一体どういうことなのでしょうか。ウソでもいいから、ストンと落ちる理屈があるなら、誰か教えて欲しいです。
20からは1から9の数詞と、20や30を表す数詞が接続詞で結ばれます。「リンゴが3と20」のような感じです。一の位が先に来ますが、これはドイツ語なども同様で、それほど驚きません。ただし、一の位が性による使い分けがある(性の異なる数詞を用いる)のに対し、十の位は性の影響を受けません1。でも、格は一の位も十の位も変化します。
考えて理解すべきことではないので、ひたすら慣れるようにしていますが、未だにさっぱり暗記できません。
しかもわたしが初級テキストとして利用しているNHKラジオ アラビア語講座では、100以上の数は「100」「1000」などの区切りの良い数しか扱っていません。普通なら「さすがに規則的になるのだろう」と思いますが、テキストにはわざわざ「三桁、四桁の数詞はこの講座では扱いません」と断り書きがあります。もしかすると、さらに複雑怪奇な規則が出現するのかもしれません。不吉です。
アラブ人と会っても、極力数字の話はしたくないです・・・。
追記:
いわゆる「アラビア数字」はアラビア語の数字とは異なり、「アラビア数字」はアラビア語圏では「インド数字」みたいに呼ばれていてようです(「アラビア数字」はアラビア語の数字に由来するようですが、パッと見た形は大分違います)。
ちなみに、アラビア語は右から左に書きますが、数字だけは左から右に書きます。
日本の開発者は、文字がらみの問題で一度は英語圏の人々を呪ったことがあると思うのですが、アラブの開発者の苦労はそんなものではないでしょう・・・。
『アラビア語が面白いほど身につく本』 アルモーメン・アブドーラ 本田孝一
- 11から19も「3と10」のように表しますが、このとき「3」が反対の性になるのに対し、「10」という語は性が一致する [↩]