兎と毒ガスの島 大久野島 うさぎ島篇


 大久野島(おおくのしま)の廃墟に続いて、うさぎ篇です。
 この島には軍事施設跡の他にもう一つ見所があります。うさぎです。
 元々は実験用に飼われていたうさぎが繁殖した、ということだと思っていたのですが、Wikipediaでは「1971年に小学校で飼育されていた8羽のウサギが放されるとたちまち繁殖して野生化」とあります。うさぎと毒ガスは全然関係ないのかもしれません(笑)。とにかく、この島には野生のうさぎがそこら中にいて、うさぎファンの間では「うさぎ島」として聖地化されているのです。
 廃墟とうさぎ。わたしのためにあるような島じゃないですか。この二点だけで、飛行機に乗って東京から遊びに行きました。
 現在島を訪れる人々の大半は、うさぎ目当てのファミリー層と年配の方。うさぎファンの女の子二人連れ、というパターンもいくらか見られます(カップルもいますが数は少ない)。廃墟がメインの男の子は、ぐっと数が少なくなります。廃墟組はほとんど日帰りらしく、島を回っている時には大きなカメラを抱えた方と何人か擦違いましたが、大久野島唯一の宿泊施設である国民休暇村にはほとんどいませんでした。もちろん、女一人で泊まっているのはわたしだけです。
 島には小さなテニスコートなどの施設がある他、釣りを楽しむこともできるので、お子様連れの方々にはもってこいです。

 大久野島は、うさぎ保護のため自動車はわたることができず、犬の連れ込みも禁止。船着場から国民休暇村までのバスが往復しているのが、島で見られる唯一の自動車です。
 このバスに乗っている間にも、道端でうさぎを目撃。船着場附近は結構数が多いです。普通にその辺にうさぎがいます。



 もう、全然関係ない感じです。
 うさぎの良いところは、この無関心なところです。もちろん、飼っていればうさぎだってそれなりに懐いてくるのですが、犬や猫と違ってそれほど賢くありません。「生物メカ」って感じです。暖かいけど、メカ。メカだけど、草好き。たまに人間のことも思い出すけれど、考えがまとまる前に忘れてしまう。
 うさぎのような草食動物を見ていると、目が離せなくなることがあるのですが、それはこの「考え」みたいな感触が著しく「通じない」からではないでしょうか。「考え」というのは、理知的な意味ではなく、「意志」や「個」といったものです。犬でも猫でも、動物なりに「個」が感じられます。でも、うさぎや羊を見ていると、確かに個体は個体なのですが、同時に全体に操られているような、不思議な感覚を覚えます。機械と昆虫と動物の境目がわからなくなるようです。ずっと見ていると、わたしも巻き込まれて境目がハッキリしなくなります。どこからどこまでが「ソイツ」で、どこからどこまでが「わたし」なのか、ぼんやりしてくるのです。すごく気持ちいイイです。

 大久野島のうさぎは完璧に人間慣れしているので、脅かしたりしなければ逃げることもありません。エサが貰えると思って近づいてくるうさぎもいますが、連休中で観光客からお腹一杯エサを貰っていたせいなのか、結構スルーされます。無関心です。
 というか、別にエサが貰えなくてもその辺の草を食べていますから、どっちだっていい感じです。

 国民休暇村の施設附近は、もうそこら中うさぎだらけです。
 カフェのお姉さんによると「今日は人が多いから、びっくりして数が少なくなっていますよね」とのことですが、十分多いです。普段はカフェの前だけで「五六十羽」いるそうです。
 島中央の山を登っていた時は、「山の中の方がうさぎがいるだろう」と思っていたのですが、展望台附近にチラホラいるだけで、実は海の近くの方がうさぎと遊べます。考えてみれば、この島のうさぎにとって、人類は完全に味方。うさぎだって、敵もいなくて食べ物があるなら、わざわざ山に登ったりしたくないでしょう。
 子供たちは大はしゃぎで、そこら中でうさぎを追い掛け回しています。リアル「うさぎ追いしかの山」です。

 うさぎのエサは国民休暇村で100円で買えますが、こちらはラビットフード。島に来る人の中に野菜屑を持っている人がいたので、「わざわざ家から持ってきたのかしら」と思っていたら、帰りがけに忠海の港で売っているに気付きました。確か50円だったと思います。野菜の方がうさぎウケもするので、船に乗る前に買っておく方がオススメです。

 のどかな「うさぎ島」ですが、やはり毒ガス施設の影響があるのか、よく観察していると畸形らしい個体がチラホラ混ざっています。

 このうさぎは片目が完全に白濁しています。
 他に皮膚の状態が悪いうさぎを見かけましたが、うさぎは一般に皮膚病にかかり易いものなので、残留薬物による先天性異常なのかどうかはわかりません。

 日差しが強いうちは、うさぎは日陰に隠れていることが多いです。朝や夕方の方が活発です。
 五月の連休シーズンには、子うさぎも見られます。「赤ちゃん」までは見られなかったのですが、生後二三ヶ月らしい子うさぎには出会えました(夕方に撮影したので映りが悪くてすいません)。

 子うさぎは、厚かましいオッサン・オバハンうさぎに比べるとシャイですので、お近づきになったり写真ゲットするのも一苦労です。
 動物の写真は本当に難しいです。近づくと逃げるかエサ目当てに突進してくるかのどちらかなので、「エサ係」と二人一組で攻略すると良いかもしれません(笑)。

 夜中にふと目が覚めてしまって、しばらく窓を開けてぼんやりしていたのですが、素晴らしく星がきれいです。「天の川ってコレか!」と本当に感動します。星が好きで、屋根の上で寝袋に入って流星群を見ていた子供の頃を思い出しました。
 聞こえてくるのは、遠い船の機関音、そして梟らしき鳥の声だけ。
 わたしはド田舎ではないものの、格別に閑静なところで育ってしまったので、こういう静けさは本当に心が安らぎます。これが普通です。東京はおかしいです。夜はね、二キロ先の電車の音が聞こえるのが当たり前ですよ。星が見えるのが当たり前ですよ。人類はそうやって生きてきたのですから。ご先祖様も、この星を見上げてずっとずっと生きてきたのです。
 夜風に当たりながら考えていたのですが、おそらく、日常意識できないレベルの「音」が想像以上に機能しているのではないでしょうか。「どうしてこんなに落ち着くのだろう」と考えると、景色や空気ももちろん素晴らしいのですが、一番違うのは「音」です。何の音もしていない、と思っている時に、識閾下で届いている音の違いが、大きく作用している気がします。逆に東京育ちの方は、子供の頃から訓練されているので、街にいても何ともないのかもしれませんが。

 そんな中でも、目を凝らすとうごめいているものがあります。うさぎです。
 哺乳類は夜の生き物なんだなぁ、恐竜が怖いから夜にコソコソ動いていたんだなぁ、と妙なところで感慨深くなります。

 前のエントリでも書きましたが、大久野島へは対岸にある忠海から船でアクセスします。一時間に一本くらい出ています。
 忠海は新幹線も止まる三原から呉線で三駅。飛行機なら、広島空港から三原までリムジンバスで約40分、820円。
 忠海は「漁村」という感じですが、三原は寂れた地方都市で、地元の方にとっては中心地かもしれませんが、東京から行くとむしろ忠海の方が気持ちがよいです。

 ちなみに、国民休暇村というものを初めて利用したのですが、設備・サービスを考えると恐ろしく安いです。一人旅のお客さんがほとんど来ないせいか、六人くらい寝られそうな部屋だったのですが(わたしの部屋より広いw)、こんなところに泊まって一万円ちょっとというのは信じられません。温泉にも入ってすっかりくつろいでしまいました。
 ファミリー層や年配の方の利用が中心のようですが、若者が使っていけない理由もないですし、旅行の時は選択肢の一つに入れておくと良さそうです。

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