任侠プロトコル


 muse-A-museさんが「かしこさ」よりも「五常」がほしいで仁義礼智信について書かれています。拝読していてふと気づいたのですが、「義」についてほとんど触れられていません。一番わかりやすいと感じられたのか、何か意図があってのことなのかわかりませんが、ちょっと気になります。


 仁義礼智信というと、やはり最初の「仁義」が有名ですが、わたしなりにものすごいざっくり言ってしまえば、義理人情で言えば仁が人情、義が義理です。仁はイマジネールで、義はサンボリック(笑)。
 義はスジミチなわけですが、そのもの自体としては「ない」ものです。
 「ない」と言えば「仁」「やさしさ」だって「ない」わけですが、「ない」の種類が違います。ジジェクがどこかで「金の山」の「無さ」ということを言っていた記憶がありますが、「仁」の「無さ」は「金の山」というもののの「無さ」(イマジネールなものの「無さ」)に似ています。「金の山」というととてもわかりやすく、それこそイメージもできるわけですが、正に物質的にイメージできてしまうがために、対応物を持ち得ない。ありそうでない。
 一方、「義」の「無さ」は、「最大値」や「自然対数の底」の「無さ」だと思うとわかりやすいです。「最大値」というものをわたしたちは理解できるわけですが、それが机の上にポンとあるようにはイメージできない。「金の山」は敷居が低いですが、「自然対数の底」は結構頑張らないといけない。その代わり、「金の山」よりずっと役に立ちます。紛れもなく機能し、「在る」と想定されることで世の中を回しています。でも、どこか歯を食いしばっているようなところがある。それが義理です。

 義理は約束事ですから、大切ではあるのですが、「所詮約束」という見切られ方もします。約束は大事だけれど、最後の最後のところで人情に道を譲るのがヒトというもの、という暗黙の了解がある。ネットワークのプロトコルみたいな感じですね。
 本当のことを言えば、そこで譲られる先は人情ではありません。人情の言葉を通じてしか義理からはアクセスできないのですが、言わば「政治的なもの」です。プロトコルはスジミチですが、スジミチ的な一貫性や合理性だけで決定されるわけではありません。「オトナの事情」が大いに作用するものです(笑)。この「オトナの事情」「あってはならないけれど、結果として作用している」ものが「政治的なもの」ですが、これにはスジミチの残余としてしかアプローチできません。義理の外にあるけれど、名指すことができない。だから義理はそれを人情に押し付ける。

 「想定することで世の中を回すけれど、最後の最後のところでは道を譲る」というのは、信仰者(神経症者、つまり普通の人)における大文字の他者の位置づけです。わたしが信仰者という時、それは単にプロトコルを遵守するヒトのことです。約束は「在る」と想定され大事にされるのですが、心底まで信じきってしまってはマズいのです。王様が裸なのには薄々気づいているのですが、敢えて指摘はしない。約束は大事だから。それがオトナというものです。
 約束を守らないのは子供です。王様は裸だなんて、そんなことはわかっているんですよ。

 一方、約束を過剰に守ってしまう、という態度があります。もう、心の底から王様はキンキラだと言い張ってしまうヒトです。IPヘッダの頭4ビットがversionなのは天地創造で神が定めた、くらいの勢いです。
 これが「狂信者」の態度であり、義理と心中する死狂いの生き様です。わたしが自称としての「原理主義者」を用いるとき、想定しているのはこのような生き方です。
 義とは義侠心、「友だちを大切にする心」ですが、侠は侠気(オトコギ、キョウキ)、狂気に連なります。この道を極めるのが極道ですから、任侠ロマンは義気を重んじるわけですが、現実にはそうそう義気と心中できるものもないし、自称「極道」がただの「外道」だったりすることもよくあるわけです(笑)。
 わたしもシモジモの者として、侠気に惹かれつつそれなりに「仁」にも擦り寄って生きていて、でも多分、本当の義気の暴走というのは、自分でエイヤッと思い切った時ではなく、気がついたら暴走していた、取り返しのつかないことになっていた、という、ある種の「失敗」としてやってくるのではないか、と信じています。

 そういう死に方をしたいものですが、ちゃんと死ぬにはちゃんと生きなければならないので、もう生きてしまっているのだ、キチンと生きろ、と半泣きで毎日走っています。

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