ジョジョの件


 空き箱:ジョジョ話に関する英語報道

問題の悪役ディオ・ブランドーはイギリス人孤児であり劇中に彼がイスラム教徒になった描写は存在していないし、犯罪性向としてもマニアックではあってもテロリストとはいいがたい。
つまり、ムハンマド風刺画問題等のイスラムバッシング表現で過敏になっているところに悪党がコーラン読んでいるシーンを見せられたので「悪意ある宣伝」と解釈して怒っているだけなわけで「悪意があるわけじゃなくてバカなんです」という集英社の言い訳はそれ自体としては正しいと思う。
正しいとは思うが、だったら内容を(しかも日本国内のプロダクトの内容を)泥縄で修正するより前にもっときちんと実際に描かれている内容を説明したらどうなのか。むしろ正式にライセンスして内容に対する誤解を受けないようなかたちで広く読んでもらうようにすべきではないのか。

要するにこの記事は意識的か無意識的かにかかわらずこの事件自体を「信仰」と「表現の自由」の対立というムハンマド風刺画事件で結果的にでっち上げられたステレオタイプに当てはめようとしている。

 この問題について、ヒステリックな反応(ヒステリックな反応に対するヒステリックな反応)が多く見られる中で、かなり冷静な目の付け所をされていると思います。「『信仰』と『表現の自由』」の対立とステレオタイプ」とは正にその通りで、この対立軸に乗ってしまった時点で、どちらに与する以前にある意味「負け」なのです。
 ジョジョ問題は、ムハンマド風刺画問題とは、そもそも本質が異なります。ジョジョの描写は別段カリカチュアを狙ったものではなく、そもそもそれがクルアーンだという認識すら持っていなかったのでしょう。正に「悪意があるわけじゃなくてバカ」です。
 ただ、集英社が内容を説明すべきか、という点については、いささか疑問です。主張はまったくもっともですが、はっきり言って、今の時点でどう内容を説明しようが、焼け石に水です。彼・彼女らは、ジョジョそのものには何の興味もないのですから。クルアーンがいかに位置づけられていたかではなく、とにかくネタにされてしまった時点で、ムスリムにとっては怒る理由が色々あるのです。それを極端な宗教バイアスと非難するのは簡単ですし、わたしも少しだけそう思いますが、集英社は別段宗教戦争がやりたいわけではないでしょう。
 ほとんどのムスリムは、もしもことの次第を理解したならば、闇雲に怒ったりわめいたりするほどアホではありません。ただ、主に欧米のイスラームに対する姿勢について、疑心暗鬼なまでに過敏になってしまっている、ということです。その原因について、ただ「アメリカが悪い」とだけ言うつもりはありません。ムスリムの側にも問題はあるでしょう。ただ、それを言ってどうにかなる状況ではありませんし、現在集英社が取っているように「バカなんです」と謝り倒して一旦事態の収束を見るのが先決です。その先に「内容」についてまで言葉を交わせる領域があれば素晴らしいことですが、その時はおそらく、ジョジョの内容にまで踏み込んでくれるムスリムを介して、「ムスリムがムスリムを説く」形にしなければ、まず真意は伝わらないと思います。

 ジョジョを全巻読破していて、かつクルアーンを読誦しない日が一日もない、というおそらく稀有な日本人として、この騒ぎはとても心が痛いです。本当は何も言いたくありません。ひたすら悲しいです。ただ、「『信仰』と『表現の自由』」の対立」という図式自体が、既にトラップなのだということ、それを強調するためだけに一応エントリを立てておきます。