アブー・フライラと猫、犬のハディース


4061492101 イスラームとは何か―その宗教・社会・文化 (講談社現代新書)
小杉 泰
講談社 1994-07

 かなり今さらですが、読んでいなかったので読みました。小杉泰先生の『イスラームとは何か―その宗教・社会・文化』です。
 「イスラーム入門新書」系で最も売れている本の一冊だと思いますが、実際非常にバランスが良く、イスラームについてまったく知識のない人でもすんなり入っていけます。
 イスラーム概説のような同じテーマを色々な著者を通じて読んでいると、内容とは別に研究者のオーラを感じられて面白いです。小杉先生からは「大きくて優しそう」な印象を受けます。ちなみに、わたしが勝手に同じような優しさを感じているアラブ・イスラーム関係の先生に、もう一人本田孝一先生がいらっしゃいます。
 『イスラームとは何か』での個人的な最大の収穫は「アブー・フライラ」でした。ハディースの七教友の一人で、ハディースを読むとこれでもかというくらい名前を目にします。「夜の三分の一を睡眠、三分の一を礼拝、三分の一を学習に充てた」というエピソードが有名ですが、この名前が「仔猫のお父さん」という意味だということに、恥ずかしながら本書で初めて気づきました(ハディースは翻訳でしか読んでいないです・・)。
 猫はhirratunですが、アラビア語には指小形という「かわいいもの」を表す形があって(ロシア語などにもあったと思う)、○u○ay○unという母音構成になります。hirratunをこの形に変形すると、hurayratunになり、最後のtunは発音されないのでhurayraだ!と気づいて、すごく嬉しくなりました(「アブー」はお父さんの意)。英語圏ではAbu Hurayra, Abu Hurairahなどの表記が見られます。
 子供の頃の猫好きっぷりから「猫オヤジ」とあだ名され、そのまま千年以上の未来にまで伝えられてしまっているわけです。
 アブー・フライラのみならず、預言者本人も猫好きで知られていて、一般にイスラームは「猫贔屓」です。ハディースには、猫を閉じ込めて餓死させた女が地獄に落ちるお話があります。
 それに比べると犬はボロクソな扱いなのですが、犬をポジティヴに扱っている貴重なハディースに、正にアブー・フライラ伝によるこんな一節があります。

アブー・フライラによると、神の使徒は語った。或る男が歩いているとき、烈しい渇きを感じたので井戸に下りて行って水を飲み、出てくると、そこに犬が居て渇きのあまり湿った土を噛んでいた。そこで、男は、この犬は自分が苦しんだような渇きに苦しんでいるに違いないと思って、また井戸に下りて行き、靴に水を満たし口にくわえて上がって来て犬に飲ませた。アッラーはその行いを嘉し、彼の過ちを赦した」と。そこで人々が神の使徒に「私達は動物にしてやった良い行いのために報いを与えられるでしょうか」と尋ねたとき、彼は「どの動物にした行いに対しても報いを受ける」と答えた。

 ついでと言っては何ですが、最近気に入ったハディースを一つ載せておきます。

アナスによると、神の使徒が「加害者であれ、被害者であれ、兄弟を助けよ」と命じたとき、アナスが「害を被ったこの人を我々は助けますが、どうして加害者を助けなければならないのでしょう」と尋ねると、彼は「悪いことをさせないために、助けるのだ」と答えた。