水の箱、雪の車


 探しものを手伝って欲しいというので、玲子に連れられて古い家にあがった。
 玲子の家なのかと思っていたら、家族は誰もいない。長い間人の住んでいた気配のない、古い造りの家だ。家の裏側がそのまま蔵に増築されていて、この地方の伝統的な建築に見える。
 一体誰の家なのか尋ねようと思ったけれど、玲子はあちこちの押し入れを開け中に潜り込み、探しものに夢中になっている。
 何を探すのかもよく分からないのだけれど、とにかく古い箱に入っているものらしいので、適当に棚を開けて覗き込んだ。
 あちこちからすきま風が吹き込んでくるし、何の暖房設備もないので、芯から冷え込んでくる。それでも勝手に帰ってしまうわけにもいかないので、順番に棚や押し入れを開けて中を探ってみた。
 ふと見ると、日焼けした畳の上にポツンと古い漆の箱が置いてある。その箱が探しものだったらしい。
 玲子の姿が見当たらないが、箱を開けてみると、中には水のようなものが入っていた。
 水のようだけれど、どことなく粘性があり、ちょっと揺らしたくらいではこぼれてくる様子がない。スローモーションのフィルムで見る水のようだ。
 どこかで見たような気がして、薄ら寒くなり、玲子を呼んだけれど返事がない。
 とにかく探しものは見つかったのだから、と、漆の箱を抱えて家を出た。
 いつの間にか雪が降り出していて、辺りは一面の銀世界になっていた。
 箱を抱えて車に向かった。走ろうにも、雪に足を取られて思うように進めない。
 車のドアを開けると、車の中まで雪でぎっしりと埋まっていた。雪を除けないと、ここから出ることもできない。
 しかし、雪を除けると、その下から死体が出てくる気がする。
 恐ろしかったが、このままでは車に入ることもできない。わたしはかじかむ手で必死で雪を除けた。
 玲子がいなくなって、箱が残っていたから、この水のようなものは玲子なのかもしれなかった。それは雪の下に埋まっている死体かもしれなかった。しかし、生きるためには、死体が埋まっているかもしれない雪をかき分けるしかなかった。