内記良一『基礎アラビヤ語』と『くわしいアラビヤ語』


 あれほど避けていた大学書林のアラビア語教科書に、とうとう手を出してしまいました。しかも二冊。
 内記良一先生の『基礎アラビヤ語』『くわしいアラビヤ語―語形と構文』です。王道ド真ん中です。
 最初に購入したのは『くわしいアラビヤ語』。おそらく、日本語で書かれた唯一の「中級以上向け」アラビア語教科書です。
 基礎の基礎を一応学び(身に付いているかは別)、「もうちょっと詳しい構文論などが欲しいなぁ」と思った時に、他に選択肢がなかったわけです。
 選択肢がないといっても、『くわしいアラビヤ語』がよろしくない、という意味ではありません。この教科書が十分な完成度を持っていて、かつアラビア語教科書の需要の少なさから、類書が出版されてこなかった、というだけの話でしょう。独学でアラビア語を学んでいる人間には、こうした情報源はちょっとでも大変有り難いです。
 『くわしいアラビヤ語』を読み進めて痛感したのは、そもそも基礎がまだまだできていない、ということです。
 まだ半年余りなので勘弁していただきたいですが、とにかく広大無辺なアラビア語文法の世界、基礎の基礎を何度でも学ばなければ、到底身に付けられるものではないようです。『基礎アラビヤ語』を購入したのは、そうした経緯からです。

 始めた時は、「こんな小さな活字の無味乾燥な教科書ではやっていられない」と思ったのですが、今のレベルでは丁度良いです。不思議なことに、読めない外国語の活字は小さく見えます。レベルがあがっていくにつれ、段々日本語に近い大きさに感じられるようになってくるものです。
 根性がないので、一番最初にコレを手にしていたら挫折していたのではないかと思うのですが、ラジオ講座や『ステップアップ アラビア語の入門』を通過した今なら、サクサク進めて、かつプラスアルファの知識が身につきます。今までの文法知識がスキだらけだったと、思い知らされています。まぁ、別段「できる」と思い上がってもいないのですが・・。
 一方で、独習で最初に手にする教科書としては、やはり『基礎アラビヤ語』は敷居が高すぎると感じます。構成としては、文字・発音から初めて基礎文法を舐めていく、という標準的なもので、解説も十分なのですが、一番初めの文字の部分が簡略で、第一章からアルファベットによる補助表記もほとんどないため、まったくの入門レベルの方にはとっつきにくいです。「簡略」というのは、『基礎アラビヤ語』がはしょっている、という意味ではなく、これはもう覚えるしかないものなので、説明しようがないです。『基礎アラビヤ語』『くわしいアラビヤ語』は、おそらく大学教養課程の教科書としてスタンダードなものではないかと思うのですが、そうした環境では先生による解説がこれを補っているのでしょう。良い教科書だとは思いますが、独習者が利用する場合には、入門向けのカジュアルな教材である程度アラビア語に馴染んでからの方が真価を発揮できるのではないかと思います。
 詳しい文法解説も、一定のレベルに達していれば有り難いですが、最初の一冊に使うとあまりの複雑怪奇さに早々に挫折させられてしまう恐れがあります。NHKラジオ講座のように双数形の活用を省く簡略的な文法紹介には是々非々の考えがあるでしょうが、初めの一歩はダイジェスト文法で入り、後から補完していくのも一つの方法なのではないでしょうか。
 別売でカセットテープ(!)もあるらしいのですが、価格も高いらしく、わたしは購入するつもりはありません。幸い今なら他にも音声教材は手に入りますし、文字・シャクルと発音の関係をマスターしていれば、必須とも言えないでしょう。逆に言うと、シャクル付きアラビア文字を不自由なく読める(意味がわかるのではなく、とりあえず発音がほぼわかる)レベルに達していなければ、ちょっと寄り道してからの方が安全です。
 ちなみに、大学書林のアラビア語教科書には、他に『基本アラビア語入門』『現代アラビア語入門』などがあるのですが、書店で手にとって比べて、内記良一先生の教科書が一番しっくりきました。サイズもコンパクトで持ち運び易いですし、直観的に馴染むオーラが出ていたので(笑)、迷いもありません。アカデミズムの外にいる者としては、大学教養課程でのシェアがどうなっているのか、ちょっと気になるところです。

 わたしの学習時間は通勤時とお昼休みがほとんどなので、どうしても黙読とリスニングばかりになってしまうのですが、声に出してみると自分のイメージ以上につっかえます。歩いている時、周りに人がいなければiPodで聞いているアラビア語をブツブツ口に出すようにしています。かなりヤバイ人です(笑)。
 アラビア語の発音は、口蓋・喉をフル活用しないといけないので、歌というか、動物の鳴きまねをやっているような気分になります。というか、「動物の鳴きまねなんだ!」と割り切ってから、前より学習が楽しくなり、発音もちょっと上手になった気がします。わたしは非常に早口で活舌が悪いのですが、この訓練で日本語の発音が向上してくれることを期待したいです。
 発音・会話については、やはりちゃんと先生について習いたいところです。カリーマ先生の本を読んでいて、「ガインの発音はフランス語のgrに近い」という記述を見た時、すごくストンと落ちて飲み込めたのですが、こういうちょっとしたヒントのようなものが、先生につくメリットなのではないかと思います。時間的にほぼ望みゼロなので、web上でアラブの方と交流するチャンネルを作って、無理矢理文法直してもらったりしています。あとはカリーマ先生や『ステップアップ アラビア語の入門』のCD録音をされている妹さんのイマーン先生の発音を心に浮かべ、黙念師容の精神で研鑽しています(笑)。

 最近になって、わからないなりにシャクルなしのアラビア語を眺めていて1、ふと読める時があるようになりました。ちょっと不思議なのは、この時音がわかるのがなぜなのか、自分でもよくわからないことです。読めてしまってから、文法的に頭で考えて「派生第二形の未完了女性二人称だから・・」と辿っていくと合っているのですが、字面を眺めている時にそんなまどろっこしいことをやっているわけではありません。読める時は読めるし、読めない時は読めない。不思議な感じです。
 歳のせいかいくらやっても中々覚えられないのですが、ネット上で若いアラブ人にバカにされまくっていて悔しいので、もう引き下がれません。大抵の日本人が、英語については「読み書き」の方が「話す」より気楽だと思うのですが、ことアラビア語については、シャクルの問題とタイピングの不慣れがあって、まだ聞いたり話したりする方がマシで、文字媒体が主流のネットでは本当に不自由です2。フリガナなしの日本語をやりとりしている外国人は、本当にすごいです。神よ、わたしにアンキパンを!

 ちなみに『基礎アラビヤ語』『くわしいアラビヤ語』は「アラビヤ」で、「アラビア」ではありません。ドシブです。Googleで検索すると「もしかしてアラビア」とツッコまれます。

  1. 子供や学習者向けのテキストやクルアーン以外、原則としてアラビア語の文章にはシャクルは振っていない。ギターのTab譜のようなもの。 []
  2. ラテン文字文化圏のアラビア語学習者の中には、強引にラテン表記した口語アラビア語をまくしたてている人もいる []