昆虫はなぜ飛ぶのか


虫

 うわー、髪超可愛いねー!
 自分でやったのー?

 とかアホなこと言いながら激写していたら、羽の外側の硬いところをモジモジさせて、離陸する気配を見せる。「それ、触覚やっちゅうねん」とか思ってウザかったのかしら。
 でもその姿がまたカッコ良くて、しつこく迫っていたら、ついにお飛びになった。
 怖い。
 甲虫飛ぶと、もんすげー怖い。
 トンボが飛んでもそんなにびっくりしないけれど、こういう硬い系の「もう飛ぶのあんまり得意じゃないんだよね」な人が遂に飛んだ時は、マジギレ!って感じで手に負えない。もう謝るしかない。
 攻撃なのか単にテキトーに飛んできただけなのかよくわからないけれど、ブブブブッとか言いながらこっちにやって来た。とっさに蹴りを出しかけたのだけれど、ヒールでうまく蹴れない。というか、この場合蹴りは良いオプションじゃない。
 はっきり言っておく。格闘技では虫に勝てない。
 パンチやだし、キックも的が小さくて速過ぎやん。寝技とかもう全然無効。
 で、反射的に「おわぉおっ!」とか叫んでた。
 びっくりして叫んだというより、攻撃の一種として叫んだんだと思う。気持ちの中では「弾幕」みたいな。
 でも全然利かない。バリア無効。

 飛ぶの得意じゃない人が遂に飛ぶのは、相当覚悟とかエネルギーとか要るんだろう、ってところまでは想像つくのだけれど、何がヤツを追い詰めているのか、今ひとつわからない。「逃げるため」って、そんな緊急な感じでもなかったやん? 特に理由もなさそうな時でも、急に飛んだりするやん? あれ何なの?
 虫的にはキンキューだったわけ? 「ここで飛ばんかったらいつ飛ぶねん」みたいな大勝負だったわけ?
 それとも、わたしの叫びとか、地球人との付き合いの中でしょっちゅう陥っているパニックみたいなもので、冷静に考えるとサッパリ意味わからないんだけれど、自分の中で飛ぶ気持ちみたいなのがブワアアア!って盛り上がって、もう飛ぶ!今飛ぶ!飛ぶ以外何も考えられない!って感じなのかな。
 だとしたらちょっとわかるかな。
 ほんと、後で考えると全然合理的じゃないのに、とんでもない行動に走っちゃう時ってあるよね。
 でもそういう「自分でもわからない」こそ神様のお導きだから、むしろ意味不明につっ走った方が良いんじゃないか、って気もする。走ってダンプに轢かれて死んでも、正しいと思う。そういう死に方をしたい。

 虫の人も必死なんだな。わたしと一緒だな。パニクって乱射してるんだな。
 秋が来てアンタが死んで、わたしがダンプに轢かれたら、神様のところで待ち合わせて、あの時は何で飛んだのか聞いてみたい。

 「昆虫の飛行を解明する 劉浩氏」、よくわかんないけど面白かった。『飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎』も気になる。