『大日本人』松本人志

B000W05NUK 大日本人
松本人志

 友人に薦められて見ました。
 今ではお笑いというものをまったく見なくなりましたが、松本人志は大好きです。ダウンタウンが有名になりかけた頃の勢いは凄かったです。
 評価が分かれる作品だと思いますが、少なくとも前半については十分正しく映画になっています。
 「伝統職人としてのウルトラマン」のような役割を受け継ぐ松本人志。今では省みられることもなく、むしろ冷たい世間の風を浴びる「大佐藤」。妻との別居、跡取問題、祖父の介護問題など、余りにも世知辛い日常を、取材カメラの視点が追っていきます。
 この手法や、描かれる「どうにもならなさ」、「電変場」と呼ばれる変電所のような施設の風景、仰々しくも形骸化した儀式など、美しく映画的です。しかし、後半になって松本は、この映画的構造自体を自ら壊していきます。
 後半部について酷評する声を聞きますし、実際わたしもあまり良い印象は抱きません。
 でもおそらく、松本人志はそう評されるのをわかって、あえて「作品」としてのまとまりをオシャカにしてしまいたかったのでしょう。「映画」になってしまうのが鬱陶しかったのだと思います。
 結果として、松本人志のテレビ的ファンにも映画ファンにもウケない作品になってしまったところはありますが、それも松本人志らしいと言えば松本人志らしいです。
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『迷子の警察音楽隊』 前線、入植地、新浦安

 『迷子の警察音楽隊』を見てきました。

B0016G2U6E 迷子の警察音楽隊
サッソン・ガーベイ カリファ・ナトゥール ロニ・エルカベッツ
Nikkatsu =dvd= 2008-06-13

文化交流のため、イスラエルにやって来たエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊のメンバー8人。しかし、空港には迎えもなく、団長(サッソン・ガーベイ)は自力で目的地を目指すが、なぜか別の街に到着してしまう。途方に暮れる彼らを、カフェの店主ディナ(ロニ・エルカベッツ)がホームステイさせてくれることになり……。

 祖国でもお荷物扱いされているらしい警察音楽隊。頑固一徹の隊長、音楽を愛しながらも生活のために淡々と任務をこなす老隊員、「五年も警察学校に通って砂漠で演奏か」とナンパにしか興味を示さない若い隊員。
 八人が迷い込んだのは、イスラエル辺境の入植地。オモチャのようにそっくり同じ形の住宅だけが並ぶ活気のない街で、小さな食堂を営む男勝りだけれどどこか色っぽい女性に、一晩の宿を頼ることになります。八人が冴えない「音楽隊」なら、古いエジプト映画のロマンスに焦がれながら婚期を逃してしまった女性、店を手伝う童貞のイスラエル人男性、一年も失業中で食堂で暇を潰しては夫婦喧嘩ばかりしている男も、皆「パッとしない」面々です。そんな言葉も通じない「普通の人々」が、一晩のロマンスを繰り広げる、というお話。
 リアル・エジプト人を知る人に言わせれば「あんな上品なエジプト人はいない」という通り、八人は(ナンパな若者を除いて)無口で大人しく、あまり「アラブ人らしく」はありません。きっとイスラエル人だって、あんな風ではないでしょう。
 ではつまらなかったのかというと、期待通りにちょっと幸せになれるとてもステキな映画でした。
 この作品はフランス・イスラエル合作なのですが、あくまで「かわいいフランス映画」。「アラブ映画」ではありませんし、素朴なオリエンタリズムが大いに映り込んでいます。
 それでも良い映画であることには変わりありません。アラビア語を学ぶ人間には、アラビア語の響きも楽しめるオマケつき、ということです。台詞の七割方は(下手くそな)英語、残りがアラビア語と現代ヘブライ語です。
 最高なのは、何といっても若いナンパなエジプト人。バス路線を尋ねてくるよう隊長に命じられ、「英語は苦手なんだよ」と渋っていたくせに、いざ美人を前にすると持てる英語力を駆使して口説きだします。辺境に迷い込んでしまったのもこのナンパエジプト人のせいなのですが1、女性を前にすると舞い上がって何もできなくなってしまうモテないイスラエル男にナンパ指南をしたり、最後まで憎めない役回りです。

 そんな「ちょっと心温まる」ストーリーと同時に、改めて印象的だったのが、入植地の風景です。
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  1. アラビア語にpの発音がないため、bとpを聞き違えたのが原因のようです []

『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』 ノイズと完全な視覚

B000FQWH14 エリ・エリ・レマ・サバクタニ

 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」1。神様ファンがこの言葉を見つけて、黙って通り過ぎる訳がありません。
 パッケージを手にとって見ると、監督青山真治、浅野忠信主演、そして中原昌也さんが音楽と共に出演。こんなどう転んでもハズレない作品に、三年間も気付かなかったなんて・・映画館で見たかった・・・。

西暦2015年。世界中で正体不明のウィルスが蔓延していた。“レミング病”と呼ばれるそのウィルスは視覚映像によって感染し確実に死に至るというものであった。人々は不安に怯え、絶望感に満ちていた。そんな中、病気の進行を抑制するといわれる唯一の方法が発見される。それは、2人の男、ミズイ(浅野忠信)とアスハラ(中原昌也)が演奏する“音”を聴くこと。やがてその噂を耳にした老富豪(筒井康隆)が彼らのもとを訪ねてくる。息子夫婦をレミング病で失い、たったひとりの跡取りとなった孫娘ハナ(宮崎あおい)までもが病に侵されているという。愛する孫娘の“死”を止めるため、彼らに演奏を懇願する老富豪。意を決したミズイはハナをある場所へと導くが…。

 「レミング病」は、もちろんレミングの集団自殺から来た名称。つまりこれは、自殺を促す病気です。
 一日で四回見ました。
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  1. 「主よ、主よ、なんぞ我を見捨て給うや」。イエスの最後の言葉とされる。 []

『ジャーヘッド』

B000M7XQ2U ジャーヘッド
ジェイク・ギレンホール ジェイミー・フォックス ピーター・サースガード
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン 2007-04-01

 何気なく見始めたのに、吸い込まれて目が離せなくなりました。従軍兵士たちが丁度同世代ということも、魅力的だった理由の一つかもしれません。
 湾岸戦争を舞台にした、「戦わない戦争映画」。
 あるのは頭をカラッポにさせる訓練と、粗野な男たち同士の諍い。砂漠に赴いてもひたすらに待機が続く。
 半年待って開いた戦線でも、一発も撃たない日だけが過ぎていく。
 死体写真家の釣崎清隆さんが、インタビューで「基本的に戦場っていうのは暇な場所なんだよ」と仰っていたのを思い出しました。

 わたしは、戦争というのは穴を掘らされることだと考えています1
 自衛隊に入ると、まず穴を掘る訓練をさせられる、と聞きます(本当かどうかは知りません)。
 掘って掘って、それから掘った穴を埋める。
 多分、戦争ってそういう感じだと思います。

 犯罪は楽しい。
 人殺しも、多分、結構楽しい。
 でも戦争は最低だ。会社より学校より主婦どもの公園より最低だ。ナカマとトモダチがいる限り。

  1.  この辺は「『誇りを持って戦争から逃げろ! 』 中山 治」に書きました []

カフルーシャはリアル”Be kind rewind”だ!

 アラブ映画祭2008で『満開(満月)』『VHSカフルーシャ~アラブのターザンを探して』『サービス圏外』を見てきました。
 最大のお目当ては最初のエントリで書いた『VHSカフルーシャ~アラブのターザンを探して』だったのですが、予想通り、というか予想を遥かに上回る凄い作品でした。
 チュニジアの自主制作映画野郎カフルーシャを追ったドキュメンタリなのですが、「こんなオッサンが本当にいていいの!?」という迫力。これ、ほんとにドキュメンタリなんですよね?
 「映画監督」カフルーシャは、普段はペンキ屋さんの45歳1。アメリカ映画をこよなく愛し、映画好きがとまらず自作自演のビデオ映画撮りまくっている熱い男です。
 その熱さが、とにかく尋常ではないのです。『VHSカフルーシャ~アラブのターザンを探して』劇中で、クリント・イーストウッドへの愛を語るシーンがこれ。

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  1.  ちなみに、わたしはひと夏ペンキ屋さんでアルバイトをしたことがありますが、ペンキを塗っているとシンナーのせいか結構ハイになってきます。わたしをそのアルバイトに入れてくれた先輩は本職顔負け、というかほとんど本職としてペンキを塗っていたのですが、どことなくカフルーシャに勢いが似ています。
     さらに余談ですが、ペンキ屋さんというのは結構セキュリティの要求される仕事です。ヤンキーが夜中にシンナーを盗みに来るので。 []

『時をかける少女』

時をかける少女 通常版 時をかける少女 通常版
仲里依紗 石田卓也 板倉光隆

角川エンタテインメント 2007-04-20
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おすすめ平均

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 webで妙に話題になっていたのでひねくれて見ていなかったけれど、見た。
 涙で顔ぐちゃぐちゃ。
 一人でよかった。

 わたしの世代のSFファンにとっては「魔女おばさん」も嬉しい。
 最近機嫌が良いので、良いものは気軽に貼り付けることにする。

小口容子『ワタシの王子』

 「常に自分が主役」で「必ず脱ぐ」孤高のマゾヒスト映像作家小口容子。その2005年作品『ワタシの王子』を拝見しました。

小口容子『ワタシの王子』

 「王子」とは「理想的サディスト」を指す彼女の用語。
 作品は、「王子」を求めSM伝言ダイヤルに電話する彼女の、無言のモノローグとして展開します。
 正確には、そこにあるのは「展開」の無さ自体です。自意識を消滅させてくれる「王子」は、決して現れません。それを予期しながら、小口は電話をかけ続け、男と会い続ける。現れる男は「王子」に程遠く、善良で害がなく、ただ照れ隠しのような世間話を話続ける。

若い男はどうでもいいことをしゃべり続ける
そんなことはいいから早く
自由がきかないようにして、そこの床の上に転がしてくれ

 それを聞く小口も、世間なみのそれなりに安全な女になってしまっていることに、多分気づいている。

私はあいづちを打ちながら
遠くにいる気がしている
ときどきふと気づく
やはり自意識を捨てることができない

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